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「説明したのに伝わらない」はなぜ?運動指導で“伝わる言葉”を行動につなげる方法

運動指導の伝え方について、「説明したのに、なぜか伝わらない」と感じた経験はないでしょうか。

「説明したのに、なぜか伝わっていない」

運動指導をしていると、このように感じることがあります。

専門家としては正しいことを説明している。

相手も「分かりました」と答えている。

それでも、実際に運動してもらうとうまくできなかったり、次に会ったときには運動を続けられていなかったりすることがあります。

ここで考えたいのが、

「伝えること」と「伝わること」、そして「行動できること」は同じではない

ということです。

専門知識を正確に伝えることはもちろん重要です。

しかし、相手がその内容を理解し、自分の生活の中で実際に行動できなければ、知識を伝えただけで終わってしまうことがあります。

この記事では、Health Literacy(ヘルスリテラシー)やTeach-back(ティーチバック)、行動変容に関するエビデンスを整理しながら、私が実際の運動指導でどのように「伝え方」を考えているのかを紹介します。


目次

「専門用語を使わない」ではなく「伝わる言葉に変換する」

医療や運動指導の現場では、専門用語を使う機会が多くあります。

例えば、

「これから身体機能を評価します」

という表現です。

医療従事者やトレーナーにとって「評価」は日常的に使う言葉です。

しかし、一般の人にとって「評価」と聞くと、成績や通知表のように「良い・悪いを判定される」というイメージを持つ人もいるかもしれません。

私はそのような場面では、

「まず今の身体の状態を確認してみましょう」

と伝えることがあります。

やることは同じです。

しかし、相手がイメージしやすい言葉へ置き換えることで、これから何をするのか理解しやすくなります。

このように、専門的な内容をできるだけ分かりやすく、簡潔な言葉で伝える考え方をPlain Language(プレイン・ランゲージ)といいます。

簡単にいえば、

「専門家の言葉を、相手が理解しやすい言葉に翻訳する」

ということです。

AHRQのHealth Literacy Universal Precautions Toolkitでも、患者への情報提供では、専門用語や難しい言葉を避け、日常的で分かりやすい言葉を用いることが推奨されています[1]

ただし、これは「専門用語を使ってはいけない」という意味ではありません。

相手に十分な知識があれば、専門用語を使った方が正確かつ効率的に伝えられる場合もあります。

重要なのは、

「自分がどの言葉を使いたいか」ではなく、「目の前の人にどの言葉なら伝わるか」を考えること

だと私は考えています。


「分かりました」だけでは、本当に伝わったか分からない

説明したあと、

「ここまで大丈夫ですか?」

と聞くと、

「はい、分かりました」

と返ってくることがあります。

しかし、この返事だけで、本当にこちらの意図が伝わっているとは限りません。

そこで参考になるのが、Teach-back(ティーチバック)という方法です。

Teach-backとは、説明した内容について、患者さん自身の言葉で、

「どのように理解したか」

「これから何をするのか」

を説明してもらい、こちらの説明が伝わったかを確認する方法です[1,2]。

例えば、

「今説明した運動について、家ではどのようにやる予定か教えてもらえますか?」

と確認します。

ここで重要なのは、患者さんをテストすることではありません。

「患者さんが理解できたか」を試験するのではなく、「こちらが理解できるように説明できたか」を確認するための方法です。

もし違う理解をしていれば、説明する側がもう一度伝え方を変えます。

Teach-backに関するsystematic reviewでは、対象となった20研究のうち19研究で、知識や理解、自己管理、一部の健康関連アウトカムなどについて肯定的な結果が報告されています[2]

ただし、対象者や介入方法、評価されたアウトカムにはばらつきがあります。

そのため、

「Teach-backを使えば必ず行動が変わる」

と考えるのではなく、「説明して終わり」にせず、こちらの説明がどのように理解されたのかを確認する一つの方法として捉えることが大切です。


運動指導では「Show-me」も使える

運動指導では、言葉で説明してもらうだけでなく、実際に身体を動かしてもらうことができます。

そこで使えるのが、Show-me(ショウ・ミー)という考え方です。

簡単にいえば、

「説明したことを、実際にやって見せてもらう」

という確認方法です[1]

例えばプランクを指導したのであれば、

「では、一度やってみてもらえますか?」

と実際に動いてもらいます。

本人は「背中をまっすぐにしている」つもりでも、実際には姿勢が崩れていることがあります。

さらに、最初はできていても、疲れてくるとフォームが変わることもあります。

そのため私は、

説明する → 理解を確認する → 実際にやってもらう → 動きを見る → 必要なら修正する

という流れを大切にしています。

言葉で伝える。

見本を見せる。

実際にやってもらう。

運動指導では、言葉だけに限定せず、相手に伝わりやすい方法を選ぶことも重要だと考えています。


「健康のために運動してください」だけでは行動につながらないことがある

説明を理解できたとしても、実際に行動するかは別の問題です。

例えば、

「健康のために毎日30分歩きましょう」

と伝えたとします。

科学的に推奨される運動量を説明すること自体は重要です。

しかし、それまで運動習慣がなかった人にとって、突然「毎日30分」という課題が加わることは、生活の中では大きな変化かもしれません。

そこで私は、

「今の生活の中だったら、どれくらいならできそうですか?」

と聞くことがあります。

例えば、

「仕事が終わってから5分なら歩けそうです」

と本人が考えたのであれば、まず5分から始めてもらいます。

週1回からでも構いません。

重要なのは、最初から理想的な運動量を達成することではなく、

その人が実際に始められる行動まで具体化すること

です。


Action Planning|「やった方がいい」を具体的な行動に変える

「運動してください」

だけでは、

「いつ?」

「何を?」

「どれくらい?」

が決まっていません。

そこで参考になるのが、Action Planning(アクション・プランニング)です。

簡単にいえば、

「やった方がいいこと」を「実際にいつ・何を・どれくらいやるか」まで具体化する

ことです。

AHRQでは、患者と医療者が一緒にaction planを作り、本人にとって重要な目標を、短期間で実行可能な小さく具体的な行動へ落とし込むことが示されています[1]

例えば、

「運動してください」

ではなく、

「仕事から帰ったあとに5分歩く」

まで具体化する。

これだけでも、本人が次に何をするのかは明確になります。


Goal Setting|本人と一緒に「どこを目指すか」を決める

行動計画を考えるうえで重要になるのが、Goal Setting(目標設定)です。

文字通り、

「何を目標にするのかを具体的に決めること」

です。

ただし私は、専門家側から一方的に目標を決めるのではなく、

「今の生活だったら、どれくらいならできそうですか?」

と本人に聞くことがあります。

例えば本人が、

「仕事が終わったあとなら5分歩けそうです」

と考えたのであれば、まずそこから始めます。

科学的に推奨される運動量があったとしても、それまで運動習慣がなかった人にとって、最初からその量を生活に取り入れることが難しい場合があります。

「科学的に推奨される運動量」と「その人が明日から実行できる運動量」は、必ずしも同じではありません。

だからこそ、目指す方向を意識しながらも、まず実行できる目標を一緒に考えます。

AHRQのaction planningでも、本人にとって重要な目標を選び、具体的かつ現実的な小さなステップに分けることが示されています[1]


Self-monitoring|自分の行動を「見える化」する

実際に行動を始めたら、その行動を振り返ることも重要です。

そこで使われる考え方の一つが、Self-monitoring(セルフ・モニタリング)です。

簡単にいえば、

「自分が実際に何をしたのかを記録して確認すること」

です。

例えば、

「今日は5分歩いた」

「今週は2回歩いた」

と手帳や記録用紙などに残してもらいます。

次に会ったときに、その記録を一緒に確認します。

できていれば、そのことをフィードバックする。

そして習慣化してきたら、

5分から10分へ。

週1回から週2回へ。

少しずつ次の段階へ進めます。

一方、できなかったのであれば、

「なぜできなかったのか?」

を一緒に考えます。

時間がなかったのか。

目標が大きすぎたのか。

生活の中に入れにくかったのか。

実行できなかったことを「意志が弱い」で終わらせるのではなく、その結果をもとに次の計画を調整します。

過体重・肥満の成人を対象に、身体活動や食行動への介入を検討したsystematic review・meta-regressionでは、Goal SettingやSelf-monitoringなどの行動変容技法が検討され、これらを用いることを支持する結果が報告されています[3]

ただし、複数の行動変容技法を組み合わせた介入が多いため、

「記録すれば必ず運動が習慣化する」

という意味ではありません。

あくまで、自分の行動を振り返り、次の行動を考えるための一つの方法です。


「正しいことを全部説明する」が最善とは限らない

もう一つ、私が意識しているのが、

情報を伝えすぎないこと

です。

特に入院中の患者さんでは、さまざまな職種から多くの情報を受け取ります。

医師からは病気や治療について。

看護師からは生活について。

管理栄養士からは食事について。

リハビリテーションスタッフからもさまざまな説明があります。

患者さん自身も、病気になったことを受け止めなければなりません。

その状況で、運動指導者がさらに大量の情報を加えることが、本当にその人のためになるとは限りません。

AHRQでは、情報過多を避けるため、患者と優先順位を考えながら、伝える内容を1〜3の「知っておく必要があること」「やる必要があること」に絞り、それを繰り返し強調することが推奨されています[1]

だから私は、

「専門家として何を説明できるか」ではなく、「この人が今、何を必要としているのか」

を考えます。


同じ患者さんでも「いつ伝えるか」で変わる

入院したばかりで、病気を受け止めるだけでも精一杯の患者さんに、

「退院後はこの運動をこれだけやりましょう」

と大量に説明しても、優先順位がそこではないことがあります。

一方、退院後に外来心臓リハビリテーションへ来て、

「自分はどれくらい運動すればいいのか知りたい」

という人であれば、運動強度や運動量について詳しく説明する意味は大きくなります。

血圧管理が優先される人もいる。

復職に向けて体力を戻すことが重要な人もいる。

運動習慣そのものを作ることが課題の人もいる。

同じ情報でも、

「誰に」「いつ」「何を」伝えるかによって、その価値は変わります。

だから私は、知っていることをすべて説明するのではなく、その人が今必要としている情報に優先順位をつけるようにしています。


運動指導の伝え方|「説明する」から「行動できる」までを考える

ここまでを整理すると、運動指導におけるコミュニケーションは、単に専門知識を分かりやすく話すことだけではありません。

運動指導の伝え方を行動につなげる6つのポイント

① 相手に合わせて言葉を選ぶ

専門用語をそのまま使うのではなく、必要に応じて相手が理解しやすい言葉へ置き換える。

「評価します」

ではなく、

「今の身体の状態を確認します」

というように伝え方を変える。

② 本当に伝わったか確認する

「分かりました」という返事だけで終わらず、必要に応じて本人の言葉で説明してもらう。

運動指導であれば、実際に動いてもらうこともできます。

③ 行動まで具体化する

「運動してください」

ではなく、

「いつ、何を、どれくらいやるか」

まで一緒に考える。

④ 実行可能なところから始める

理想的な目標を最初から求めるのではなく、その人が実際に取り組める小さな行動から始める。

⑤ 記録して振り返る

できたかどうかを記録し、次回一緒に確認する。

できなかった場合には、その理由を考えて計画を調整する。

⑥ 今必要な情報を選ぶ

専門家が知っていることをすべて伝えるのではなく、その人が今必要としている情報に優先順位をつける。


Take Home Message

専門知識を持っていることと、それを相手に伝えられることは同じではありません。

そして、

「伝わったこと」と「実際に行動できること」も同じではありません。

専門用語を相手が理解できる言葉へ変える。

本当に伝わったか確認する。

必要なら実際にやってもらう。

その人が実行できる目標を一緒に考える。

記録し、振り返り、少しずつ次の段階へ進める。

そして、すべてを説明するのではなく、

「今、この人に何を伝える必要があるのか?」

を考える。

私は、これらも運動指導者に必要なコミュニケーション能力だと考えています。

「何を知っているか」だけではなく、

「その知識を、目の前の人が理解し、行動できる形へどう変換するか」

まで考える。

それが、知識を実践につなげるために必要な力の一つではないでしょうか。


参考文献

  1. Agency for Healthcare Research and Quality. Health Literacy Universal Precautions Toolkit, 3rd Edition. AHRQ; 2024.
  2. Talevski J, Wong Shee A, Rasmussen B, Kemp G, Beauchamp A. Teach-back: A systematic review of implementation and impacts. PLoS One. 2020;15(4):e0231350. doi:10.1371/journal.pone.0231350.
  3. Samdal GB, Eide GE, Barth T, Williams G, Meland E. Effective behaviour change techniques for physical activity and healthy eating in overweight and obese adults; systematic review and meta-regression analyses. Int J Behav Nutr Phys Act. 2017;14:42. doi:10.1186/s12966-017-0494-y.
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この記事を書いた人

安澤 佳樹|Yoshiki Anzawa
医療・スポーツ・教育の領域で、運動と身体機能に関する実践・研究に取り組んでいます。大学病院での心臓リハビリテーションや運動指導、スポーツ現場でのコンディショニングや外傷・障害予防、専門職の教育など、領域を横断して活動しています。研究テーマは、心血管疾患に対する運動療法・身体機能、心臓リハビリテーション、スポーツ外傷・障害など。AZ_ONEでは、「エビデンスを、現場で使える知識に変換する」をテーマに、研究と実践をつなぐ情報を発信しています。

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