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心不全の運動療法とは?どんな運動をどのくらい行う?運動の目安と注意点を解説

心不全の運動療法について、「心臓が悪いのに運動しても大丈夫なの?」と不安に感じる方もいるのではないでしょうか。

また、

「ウォーキングをするなら、どのくらい歩けばいい?」
「筋力トレーニングをしても問題ない?」

といった疑問を持つ方も少なくありません。

心不全では、ただ安静にしていればよいわけではありません。

適切な運動療法を行うことで、運動耐容能やQOL(quality of life:生活の質)の改善などが期待できます。[1]

一方で、心不全の状態や身体機能は一人ひとり異なるため、「心不全なら毎日○分歩けばよい」と一律に決めることもできません。

心不全の運動療法では、その人の状態を評価したうえで、有酸素運動や筋力トレーニングなどを組み合わせ、運動の強度・時間・頻度を調整していくことが重要です。[1,2]

この記事では、心不全ではどのような運動を行うのか、どのくらいの頻度・時間・強度で行うのか、そして運動するときに注意したいポイントについて、ガイドラインや研究をもとに解説します。

目次

心不全でも運動して大丈夫?

「心不全」と聞くと、心臓に負担をかけないために、できるだけ安静にした方がよいと考える方もいるかもしれません。

しかし、すべての心不全患者に安静が必要というわけではありません。

2025年の日本循環器学会・日本心不全学会の心不全診療ガイドラインでは、回復期の心不全患者に対して、LVEF(left ventricular ejection fraction:左室駆出率)にかかわらず、運動耐容能やQOLを改善する目的で運動療法を行うことが推奨されています。[1]

LVEFとは、心臓の左心室にたまった血液のうち、1回の拍動でどの程度送り出せているかを示す指標です。

また、運動耐容能とは、簡単にいえば「どの程度の運動を行うことができるか」という身体の能力です。

ただし、

「心不全に運動療法が推奨されている」=「心不全なら誰でも同じように運動してよい」

というわけではありません。

心不全が安定している場合と、息切れや浮腫などが悪化している場合では、運動への対応も異なります。

そのため、まず現在の病状や身体機能を評価し、その人がどの程度の運動を行える状態なのかを確認したうえで運動療法を考えることが重要です。

心不全で運動療法を行うとどんな効果がある?

心不全患者が運動療法を行うことで、運動耐容能やQOLの改善などが期待できます。[1]

さらに、Yamamotoらが2024年に報告したシステマティックレビュー・メタ解析では、慢性心不全患者を対象とした72研究、8,495例が解析されました。[3]

その結果、運動を中心とした心臓リハビリテーションによって、運動耐容能やQOLの改善に加えて、再入院リスクの低下が示されました。[3]

全原因による再入院は、

RR 0.80(95% CI 0.70–0.92)

でした。

「全原因」とは、心不全による再入院だけではなく、さまざまな理由による再入院を含むという意味です。

また、RR(relative risk:相対リスク)とは、ある出来事が起こる割合を2つのグループで比較する指標です。

RR 1.0を基準として、RR 0.80であれば、運動を中心とした心臓リハビリテーションを行ったグループでは、通常診療と比較して再入院の相対的なリスクが20%低かったと考えます。

ただし、これは「再入院する人が20%減った」という意味ではありません。あくまで2つのグループを比較した相対的なリスクの違いです。

心不全による再入院については、

RR 0.88(95% CI 0.78–1.00)

と報告されています。[3]

一方、このメタ解析では死亡率について低下は示されませんでした。

ここで大切なのは、心不全の運動療法の効果を死亡率だけで判断しないことです。

運動耐容能を改善すること、日常生活を送りやすくすること、生活の質を保つこと、そして再入院のリスクを減らすこと。

こうした複数の視点から、運動療法の効果を考えることが大切です。

心不全ではどんな運動を行う?

心不全の運動療法というと、ウォーキングをイメージする方が多いかもしれません。

ウォーキングなどの有酸素運動は重要ですが、それだけではありません。

慢性心不全では、有酸素運動を中心として、患者さんの状態に応じて筋力トレーニングなどを組み合わせていきます。[1,2]

有酸素運動

代表的な有酸素運動には、ウォーキングや自転車エルゴメータなどがあります。

ただし、「心不全にはウォーキングがよいから、たくさん歩けばよい」というわけではありません。

同じ30分のウォーキングでも、余裕をもって行える方もいれば、強い息切れや疲労を感じる方もいます。

そのため、心不全の状態や運動耐容能などを確認しながら、運動の強度・時間・頻度を調整していきます。[1,2]

筋力トレーニング

心不全の運動療法では、筋力トレーニングも重要です。

特に、高齢者や身体機能が低下した心不全患者では、フレイルやサルコペニアを伴っていることがあります。

フレイルとは、加齢や病気などによって身体や心の予備力が低下し、健康障害を起こしやすくなった状態です。

サルコペニアは、筋力低下を中心に、筋肉量や身体機能の低下を伴う状態です。

2025年のJCS/JHFSガイドラインでは、高齢またはデコンディショニングを認める心不全患者でフレイルやサルコペニアを伴う場合、レジスタンストレーニングや多要素運動が推奨されています。[1]

したがって、「心不全だから筋力トレーニングは避ける」と一律に考える必要はありません。

心不全の運動療法ではどのくらい運動すればいい?

ここは多くの方が知りたいところだと思います。

結論からいえば、心不全患者に共通する「○分行えばよい」という運動量があるわけではありません。

2026年のESC心臓リハビリテーションガイドラインでは、慢性心不全に対する持久性運動について、週2〜3日から開始して週3〜5日へ、1回15〜30分から45〜60分へ段階的に増やしていくことが一般的な目安として示されています。[2]

重要なのは、「週3〜5日・45〜60分」という数字だけを見るのではなく、少ない運動量から始め、状態を確認しながら段階的に増やしていくことです。

運動強度についても一律に決めるのではなく、運動耐容能やリスク、運動への反応などを踏まえて調整します。2026年ESCガイドラインでは中等度から中〜高強度が示されていますが、運動耐容能が低い場合など、患者さんによっては低強度から開始します。[2]

実際の心臓リハビリテーションでは、CPX(心肺運動負荷試験)の結果や心拍数、RPE(rating of perceived exertion:自覚的運動強度)などを利用して運動強度を考えることがあります。

RPEとは、本人がその運動をどの程度きついと感じているかを表す指標です。

運動強度の具体的な決め方については、「心臓リハビリの運動強度はどう決める?心拍数・AT・RPEを使った考え方」で詳しく解説しています。

筋力トレーニングについては、2026年ESCガイドラインでは週2日以上、大きな筋群を対象として8〜15回を2セット以上へ段階的に増やし、強度についても40〜60%1RMへ段階的に増やすことが示されています。[2]

1RM(one-repetition maximum)とは、正しいフォームで1回だけ持ち上げられる最大重量のことです。

ただし、これらはすべての心不全患者が最初から行う運動量ではありません。

「何kg持ち上げたか」「何分歩いたか」だけではなく、その運動に身体がどのように反応しているかを見ることが重要です。

若手臨床家

心不全の患者さんから『どのくらい運動すればいいですか?』と聞かれたら、どう答えればいいですか?

一律に『○分』と決めるのではなく、その方の心不全の状態や運動耐容能を確認することが大切です。少ない運動量から始めて、症状や運動への反応を見ながら少しずつ調整していきます。

心不全のウォーキングはどのくらいが目安?

ウォーキングの時間は一律には決められません。その人がどの程度の運動を行えるのか、そして歩いたときに身体がどのように反応するのかによって変わります。

先ほど紹介したように、慢性心不全に対する持久性運動では、週2〜3日・1回15〜30分から開始し、状態に応じて段階的に増やしていく一般的な目安が示されています。[2]

ただし、これは「心不全なら15〜30分歩けばよい」という意味ではありません。

数分歩いただけで息切れする方と、30分歩いても余裕がある方では、適切な運動量は異なります。

同じ20分のウォーキングでも、その人にとっての運動の意味は異なります。

そのため、「何分歩いたか」だけではなく、息切れや疲労など、その運動に身体がどのように反応したかまで確認することが重要です。

特に退院したばかりの方や、これまであまり運動していなかった方は、最初から目標時間まで歩こうとせず、医師や心臓リハビリテーションのスタッフと相談しながら進めていきましょう。

若手臨床家

『心不全でも毎日30分くらい歩いた方がいいですか?』と聞かれることがあります。

ウォーキングは取り組みやすい運動ですが、全員に同じ時間を勧めるわけではありません。大切なのは歩いた時間だけではなく、息切れや疲労など、その運動に対する身体の反応まで確認することです。

心不全で運動をしすぎるとどうなる?

心不全に運動療法が推奨されているからといって、運動量は多ければ多いほどよいわけではありません。

運動の時間や強度がその人の状態に対して高すぎれば、強い息切れや疲労などが生じることがあります。

また、心不全では体調や病状が変化することがあるため、先週問題なくできた運動が、今日も同じようにできるとは限りません。

そのため、「○分以上歩いたら運動しすぎ」というように、時間だけで判断することはできません。

大切なのは、運動時間や運動強度だけではなく、運動中や運動後の身体の反応も合わせて考えることです。

いつもより強い息切れがある、以前と同じ運動なのにつらく感じるなどの変化があれば、予定していた運動を無理に続けるのではなく、その日の状態を確認する必要があります。

若手臨床家

患者さんから『運動はやればやるほどいいんですか?』と聞かれたら、どうでしょうか?

運動量が多ければよいわけではありません。その日の体調によっても適切な運動量は変わります。いつもより息切れが強い、同じ運動なのにつらいといった変化があれば、無理に続けず状態を確認することが大切です。

心不全で運動を控える必要があるのはどんなとき?

心不全の運動療法では、「運動した方がよいか」だけでなく、「今日は運動してよい状態なのか」を考えることも重要です。

例えば、数日間で運動できる量が徐々に低下している、安静にしていても息苦しさが悪化している、短期間で体重が増えているなどの変化があれば、予定していた運動をそのまま行うのではなく、まず状態を確認する必要があります。[2]

ただし、「○kg増えていなければ大丈夫」というように、一つの数字だけで判断するものでもありません。

普段より息切れが強い、むくみが増えた、いつもの運動が急につらくなったなど、普段との違いも重要です。

具体的な運動療法の禁忌については、「心臓リハビリの禁忌とは?絶対的禁忌・相対的禁忌と運動療法の注意点を解説」で詳しく解説しています。

また、実際に運動を始めたあとに、どのような症状や反応がみられたら運動を中止するのかについては、「心臓リハビリの運動中止基準とは?血圧・心拍数・症状から安全管理を考える」で詳しく解説しています。

実際の心臓リハビリではどう運動を組み立てる?

ここからは、私が実際に心不全患者さんの運動療法を考えるときに大切にしていることです。

ここで紹介する流れは、ガイドラインに示された特定の手順をそのまま紹介するものではなく、エビデンスや実際の評価を踏まえて、私自身が臨床で整理している考え方です。

私は、いきなり「今日は何分歩くか」「何Wで自転車をこぐか」から考えるわけではありません。

まず確認するのは、「今、この患者さんはどのような状態なのか」ということです。

心不全と一言でいっても、その病態はさまざまです。

例えば、HFrEF(heart failure with reduced ejection fraction:LVEFが低下した心不全)とHFpEF(heart failure with preserved ejection fraction:LVEFが保たれている心不全)でも病態は異なります。

そのため、まず原疾患や心不全の状態、現在行われている治療などを確認します。

そして、私が特に確認しているものの一つが薬物治療の状況です。

現在の心不全治療では、HFrEFを中心にβ遮断薬、ARNI(アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬)、MRA(ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬)、SGLT2阻害薬などが用いられます。[1]

薬物治療が変更・調整されている時期には、運動療法を行う側もその変化を把握しておく必要があります。

例えば、血圧が以前より低くなっていれば、血圧の数字だけではなく、ふらつきやめまいなどの症状がないかも確認します。

β遮断薬が使用されていれば心拍数の反応にも影響するため、心拍数だけを頼りに運動強度を判断するのではなく、症状やRPEなども含めて考えます。

また、体重の変化についても、その数字だけを見るのではありません。

治療によってうっ血が改善して体重が減少しているのか。それとも、筋力や身体機能、栄養状態の低下も考える必要があるのか。

反対に体重が増加している場合には、体液貯留など心不全の悪化を疑う必要がないか。

「その数字がなぜ変化しているのか」を考えることが重要です。

さらに、外来心臓リハビリテーションでは、前回まで問題なく運動できていた患者さんの状態が変化していることもあります。

体重が徐々に増えてきた、以前より息切れしやすい、むくみが強くなった、横になると息苦しいといった変化があれば、「予定していた運動を行うこと」よりも、その変化を確認することが先になります。

心不全が悪化し、安静時の呼吸困難などがみられる場合には、運動を続けるのではなく、医学的な評価を優先します。[1,2]

また、季節や生活状況にも目を向けます。

例えば夏場では、発汗に加えて利尿薬を使用している患者さんもいるため、体調や水分摂取の状況などにも注意します。

つまり、心不全の心臓リハビリテーションは、単に決められた運動メニューを実施するものではないと私は考えています。

病態・治療を確認する → その日の症状や状態を確認する → 身体機能・運動耐容能を評価する → 運動内容を決める → 運動を実施する → 運動への反応を確認する → 次の運動へ調整・再評価する。

心不全の運動療法を組み立てる流れ.png

こうした流れを繰り返しながら、その患者さんに合った運動療法を考えていくことが重要です。

運動だけを見るのではなく、治療、症状、身体機能、生活状況などにも目を向け、必要に応じて多職種と連携する。

私は、こうした包括的なサポートそのものが心不全の心臓リハビリテーションでは重要だと考えています。

まとめ

心不全では、適切な運動療法によって運動耐容能やQOLの改善が期待できます。また、運動療法を含む包括的な心臓リハビリテーションは、再入院を防ぐうえでも重要です。[1,3]

運動療法では、ウォーキングや自転車エルゴメータなどの有酸素運動を中心に、患者さんの状態に応じて筋力トレーニングなどを組み合わせます。

一方で、「心不全なら1日○分歩けばよい」と一律に決めることはできません。

心不全の状態、運動耐容能、身体機能、薬物治療、血圧、体重、症状などを確認しながら、運動の種類・強度・時間・頻度を一人ひとりに合わせて調整することが大切です。

そして、運動療法は一度決めたら終わりではありません。

評価する → 運動する → 反応を確認する → 調整する。

この流れを繰り返していきます。

心不全の運動療法で大切なのは、「たくさん運動すること」ではありません。

その人の状態に合った運動を、安全に、無理なく続けていくこと。

そのために運動だけを見るのではなく、治療や症状、日々の身体の変化まで含めて考えていくことが、心不全の心臓リハビリテーションでは重要です。

参考文献

[1] Kitai T, Kohsaka S, Kato T, et al. JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure. Circ J. 2025;89(8):1278–1444. doi:10.1253/circj.CJ-25-0002.

[2] Bäck M, Wilhelm M, et al. 2026 ESC Guidelines on cardiac rehabilitation. Eur Heart J. Published online August 28, 2026. doi:10.1093/eurheartj/ehag099.

[3] Yamamoto S, Okamura M, Akashi YJ, et al. Impact of Long-Term Exercise-Based Cardiac Rehabilitation in Patients With Chronic Heart Failure—A Systematic Review and Meta-Analysis. Circ J. 2024;88(9):1360–1371. doi:10.1253/circj.CJ-23-0820.

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この記事を書いた人

安澤 佳樹|Yoshiki Anzawa
医療・スポーツ・教育の領域で、運動と身体機能に関する実践・研究に取り組んでいます。大学病院での心臓リハビリテーションや運動指導、スポーツ現場でのコンディショニングや外傷・障害予防、専門職の教育など、領域を横断して活動しています。研究テーマは、心血管疾患に対する運動療法・身体機能、心臓リハビリテーション、スポーツ外傷・障害など。AZ_ONEでは、「エビデンスを、現場で使える知識に変換する」をテーマに、研究と実践をつなぐ情報を発信しています。

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