「心臓リハビリの期間は、いつまでなのでしょうか?」
心筋梗塞や心不全、心臓手術などをきっかけに心臓リハビリテーションを始めた方にとって、これは気になる疑問の一つだと思います。
退院したら終わりなのか。外来の心臓リハビリには何か月通うのか。調べているうちに「150日」という数字を見つけて、「150日経ったら心臓リハビリは終わりなの?」と疑問に思った方もいるかもしれません。
先に結論をお伝えすると、心臓リハビリは「150日経ったらすべて終了」と考えるものではありません。
ここで区別しておきたいのが、「医療機関で心臓リハビリを受ける期間」と「心臓病の再発予防として運動や自己管理を続ける期間」は同じではないということです。
日本のガイドラインでは、心臓リハビリを急性期・回復期・維持期に分け、退院後は外来心臓リハビリと自宅での運動を組み合わせながら、その後の維持期へとつなげていく考え方が示されています。[1]
この記事では、心臓リハビリはいつまで続けるのかについて、退院後の外来心臓リハビリ、「150日」という期間の意味、その後の運動や自己管理まで順番に整理します。
患者さんやご家族には、今後の心臓リハビリを考える材料として。そして医療・運動指導に関わる方には、患者さんへ「いつまで続けるのか」を説明するときの考え方として読んでいただければと思います。
心臓リハビリは「いつ終わるか」だけで考えない
心臓リハビリの期間を考えるうえで、まず知っておきたいのが、心臓リハビリには段階があるということです。
日本のガイドラインでは、心臓リハビリを大きく急性期(Phase I)、回復期(Phase II)、維持期(Phase III)に分けています。[1]
発症や手術の直後には、全身状態を確認しながら離床を進めます。その後は運動療法や生活習慣の改善に取り組みながら、退院、社会復帰へと進んでいきます。
そして、社会復帰したらすべて終了するわけではありません。
維持期では、回復期に獲得した身体・精神機能を維持し、再発予防に取り組みながら、自宅や地域など日常生活の中で運動や自己管理を継続していきます。[1]
ここでいう「継続」は、一生、病院へ通って同じ心臓リハビリを受け続けるという意味ではありません。
病院で医療スタッフの管理を受けながら運動する段階から、自宅などでの運動へ移り、自分自身で運動や体調を管理していく。
つまり心臓リハビリでは、
「終了する」というよりも、「次の段階へ移行する」
と考えた方が、実際の流れを理解しやすいと思います。
退院したら心臓リハビリは終わり?
退院は、心臓リハビリの終了を意味するものではありません。
入院中に歩けるようになり、日常生活が送れる状態になったとしても、それだけで以前と同じ生活に完全に戻ったとは限りません。
退院すると、買い物、家事、通勤、仕事など、病院の中にはなかった活動が増えていきます。
「どのくらい歩いていいのか」
「どの程度の運動なら安全なのか」
「息切れや疲労が出たときはどうすればいいのか」
こうした疑問も、実際の生活へ戻ってから出てきます。
日本のガイドラインでは、退院後の心臓リハビリとして、医療機関で行う外来心臓リハビリと、自宅で行う運動を組み合わせる流れが示されています。[1]
外来心臓リハビリの役割は、単に病院へ来て運動することだけではありません。
心拍数や血圧、自覚症状などを確認しながら運動を行い、必要に応じて心肺運動負荷試験(CPX)などから運動耐容能を評価します。
さらに、服薬、食事、生活習慣、冠危険因子などを含めた疾病管理を行い、その後の生活につなげていくことも重要です。[1]
心肺運動負荷試験について詳しく知りたい方は、「心肺運動負荷試験(CPX)とは?何がわかる?心臓リハビリでの活用をわかりやすく解説」で詳しく解説しています。
外来の心臓リハビリにはいつまで通う?
では、退院後の外来心臓リハビリには、どのくらいの期間通えばよいのでしょうか。
日本のガイドラインでは、退院後の心臓リハビリについて、外来で行う監視下の心臓リハビリと自宅での運動を組み合わせ、回復期の前半では身体機能や生活管理の回復を図り、後半では自立を目指して維持期へ移行していく流れが示されています。[1]
この「自立に向けた移行」という考え方は、とても重要です。
外来心臓リハビリの目的は、決められた期間だけ病院で運動することではありません。
医療スタッフが状態を確認できる環境で運動しながら、自分に適した運動量を理解し、日常生活でも運動や体調管理を続けられるようになる。
そのための準備期間でもあります。
したがって、外来心臓リハビリに通う期間は、単純に「○か月通えば十分」と考えるよりも、その期間を使って、その後の生活をどう作っていくかまで考えることが大切です。
そして、この期間について調べたときによく目にするのが「150日」という数字です。
心臓リハビリの「150日」とは?
日本の診療報酬制度では、心大血管疾患リハビリテーション料は、原則として治療開始日から150日を限度として算定することが定められています。[2]
150日は、およそ5か月です。
そのため、「心臓リハビリは5か月まで」「150日で終了」と説明されることがあります。
ただし、ここは注意が必要です。
150日は、心臓リハビリそのものを終了する医学的な期限ではありません。
あくまで、150日は日本の診療報酬制度における心大血管疾患リハビリテーション料の「標準的算定日数」です。
つまり、
150日=心臓リハビリのゴール
ではなく、
150日=標準的算定日数の一つの区切り
と考えるとわかりやすいでしょう。
これは患者さんだけでなく、心臓リハビリに関わり始めた若手の医療従事者やトレーナーにも押さえておいてほしいポイントです。
「150日経過したから、その患者さんにはもう運動や再発予防が必要ない」という意味ではありません。
反対に、「150日間は必ず病院へ通わなければならない」という意味でもありません。
実際の外来心臓リハビリの期間や頻度は、病状、治療経過、身体機能、運動耐容能、併存疾患、生活環境などを踏まえて考えていく必要があります。

150日を過ぎたら心臓リハビリはできない?
ここも誤解されやすいところです。
150日を過ぎたら、すべての患者さんが一律に心臓リハビリを受けられなくなるわけではありません。
厚生労働省の規定では、治療を継続することによって状態の改善が期待できると医学的に判断される場合など、所定の条件を満たせば150日を超えて心大血管疾患リハビリテーション料を算定できる場合があります。[2]
そのため、
「150日を過ぎたら保険診療では絶対に心臓リハビリを受けられない」
と一律に考えるのも正確ではありません。
ただし、ここで本当に考えたいのは、「どうすれば150日を超えて病院へ通えるか」だけではありません。
外来心臓リハビリを行っている期間から、その後の生活を見据えて、自分で運動や体調を管理するための準備を進めることが重要です。
「自宅ではどのくらい運動するのか」
「どのくらいの強度ならよいのか」
「体調が悪い日はどうするのか」
「どのような変化があれば医療機関へ相談するのか」
こうしたことを少しずつ身につけていきます。
つまり、外来心臓リハビリを「病院で運動する場所」だけではなく、「自分で健康管理を続けられるようになるための場所」として捉えることも大切です。
病院での心臓リハビリが終わった後はどうする?
病院での心臓リハビリが一区切りとなった後は、そこで運動をやめるのではなく、それまでに身につけた運動や自己管理を日常生活へ移していくことが重要です。
2026年ESC心臓リハビリテーションガイドラインでは、structured CR(構造化された心臓リハビリテーション)の終了後も、長期的な心血管の健康のために定期的な身体活動を維持することが重要とされています。[3]
また、CR終了後も、それまでに得られた効果を維持するため、自己管理しながら運動を継続することが示されています。[3]
自宅でウォーキングなどを継続できる方もいれば、状態に応じて、医療者による継続的な評価や適切な運動支援を受けた方がよい方もいます。
重要なのは、病院で行っていた運動をそのまま繰り返すことではなく、その人の状態と生活に合わせて継続できる形を作ることです。
一度決めた運動内容をずっと変えずに続けるのではなく、身体機能や病状、生活状況の変化に応じて、必要に応じて評価し、運動内容を見直していくことも大切です。
自宅での具体的な運動方法については、「心臓リハビリは自宅でもできる?運動の方法と安全に続けるポイントを解説」で詳しく紹介しています。
また、「どのくらいの強度で運動すればよいのかわからない」という場合には、心拍数、AT(嫌気性代謝閾値)、RPE(自覚的運動強度)などを使って考える方法があります。
詳しくは、「心臓リハビリの運動強度はどう決める?心拍数・AT・RPEを使った考え方」で解説しています。
私が考える「心臓リハビリの終了」
ここからは、ガイドラインや診療報酬制度そのものの説明ではなく、私自身が心臓リハビリの現場で患者さんと関わる中で大切だと考えていることです。
私は、心臓リハビリの「終了」を考えるときに、単に何日経過したかだけではなく、その人が自分自身で運動や体調を管理できる状態になっているかを見ることが重要だと考えています。
病院では、医療スタッフが血圧や心拍数、その日の体調を確認しながら運動を行います。何か変化があれば、その場で相談することもできます。
しかし、自宅などで運動するようになれば、そうした判断の一部を患者さん自身が行うことになります。
そのため、外来心臓リハビリの期間中には、運動能力を高めることだけでなく、
- 自分に適した運動強度を理解しているか
- 血圧や心拍数、自覚症状をどのように確認するか
- 体調に応じて運動量を調整できるか
- どのような症状があれば運動を中止するのか
- どのような変化があれば医療機関へ相談するのか
- 自分の生活の中で無理なく運動を継続できるか
といったことも重要になります。
病院で安全に運動できることと、病院の外でも自分自身で安全に運動を続けられることは、同じではありません。
これは、心臓リハビリに関わり始めた若手の臨床家やトレーナーにも意識してほしい部分です。
運動療法というと、「何分歩くのか」「何Wで自転車をこぐのか」「心拍数をどこまで上げるのか」といった運動処方に目が向きやすくなります。
もちろん、それらは重要です。
しかし、その運動を患者さん自身が生活の中で再現し、継続できるところまで支援することも、心臓リハビリでは重要だと私は考えています。
だからこそ、私は心臓リハビリの「終了」を、
「医療者に管理してもらいながら運動する段階から、自分自身で運動と健康を管理する段階へ移行できているか」
という視点でも考えるようにしています。
もちろん、すべての患者さんが同じタイミングで自己管理へ移行できるわけではありません。
疾患、心機能、運動耐容能、筋力、フレイル、併存疾患、生活環境、家族の支援などによって、必要なサポートは異なります。
だからこそ、「150日経ったから終了」ではなく、その人に何ができていて、何がまだ難しいのかを評価しながら、次の運動環境へつなげていくことが重要なのではないかと思います。
150日後の生活まで見据えて考える
私は、150日という期間そのものよりも、その先で患者さんがどのように運動を続けていくのかを考えることが重要だと感じています。
外来心臓リハビリが終了すれば、運動の多くは日常生活の中で行うことになります。
だからこそ、心臓リハビリの期間中から、
「この人は病院の外でも運動を続けられるだろうか?」
という視点を持っておくことが重要です。
150日をゴールにするのではなく、その先でも患者さんが自分に合った方法で運動や健康管理を続けられる状態を目指す。
そして、すべてを患者さん一人に任せればよいという意味でもありません。
自分で継続できる方もいれば、その後も何らかの支援が必要な方もいます。
大切なのは、その人の状態を評価し、必要な支援を考え、適切な次の環境へつなげていくことです。
医療機関で行う心臓リハビリと、その後の運動を分断しない。
この「つなぐ」という視点は、回復期から維持期の心臓リハビリを考えるうえでも重要だと私は考えています。
なお、運動中にどのような症状や変化があれば運動を中止すべきかについては、「心臓リハビリの運動中止基準とは?血圧・心拍数・症状から安全管理を考える」で詳しく整理しています。
まとめ
心臓リハビリについて調べると、「150日」という期間を目にすることがあります。
しかし、150日は心臓リハビリそのものの終了を意味する数字ではありません。
日本の診療報酬制度では、心大血管疾患リハビリテーション料は原則として治療開始日から150日を限度として算定されますが、所定の条件を満たせば150日を超えて算定できる場合もあります。[2]
心臓リハビリは、入院中の急性期から、退院後の回復期、そして社会復帰後の維持期へと続いていきます。[1]
その過程で重要なのは、病院で運動することだけではありません。
自分に適した運動を理解し、体調を確認しながら、生活の中で運動や再発予防を続けられるようになること。
そのため、「心臓リハビリはいつまで?」という疑問に対しては、
「病院で受ける心臓リハビリには制度上の区切りがある。しかし、運動や再発予防までそこで終わるわけではない」
と考えると理解しやすいでしょう。
心臓リハビリの終了を「運動の終了」にするのではなく、その後も自分の生活の中で運動を続けていくための次の段階への移行として捉えることが大切です。
