「高血圧の人は筋トレをしても大丈夫なのか?」
「血圧を下げるなら、ウォーキングや自転車などの有酸素運動をした方がいいのか?」
「それとも筋トレでも血圧は下がるのか?」
高血圧に対する運動療法では、これまで有酸素運動が中心に考えられてきました。
一方、近年ではレジスタンス運動についても、血圧を下げる効果を示す研究が増えています。
日本高血圧学会(The Japanese Society of Hypertension:JSH)の「高血圧管理・治療ガイドライン2025(JSH2025)」でも、有酸素運動だけでなく、レジスタンス運動が高血圧に対する運動療法の選択肢として示されています[1]。
では結局、高血圧の人にはどちらを行えばよいのでしょうか。
この記事では、最新のガイドラインや研究をもとに、
「有酸素運動と筋トレのどちらが優れているか」だけではなく、実際の運動指導でどう選び、どう組み合わせればよいのか
というところまで考えていきます。
高血圧でも筋トレをして大丈夫?
結論から言えば、高血圧があるという理由だけで、筋力トレーニングを一律に避ける必要はありません。
現在では、レジスタンス運動も高血圧に対する運動療法の一つとして考えられています。
レジスタンス運動には、スクワットやカーフレイズなどのように関節を動かしながら筋力を発揮する動的レジスタンス運動(一般的な筋力トレーニング)と、関節を大きく動かさずに筋力を発揮する等尺性レジスタンス運動(アイソメトリック運動)などがあります。
以前は「高血圧なら有酸素運動」というイメージが強く、レジスタンス運動は運動中の血圧上昇への懸念から慎重に扱われることもありました。
しかし現在では、動的レジスタンス運動だけでなく、アイソメトリック運動についても降圧効果を示す研究が報告されています。
もちろん、これは「高血圧なら誰でも、どんな筋トレをしても安全」という意味ではありません。
特に高重量を扱って強く力んだり、呼吸を止めたりすると、運動中の血圧が大きく上昇する可能性があります。
そのため、
「筋トレをしてよいか、してはいけないか」ではなく、「どのような運動を、どの程度の負荷で行うか」
まで考える必要があります。
運動前の血圧や運動時の注意点については、こちらの記事で詳しく解説しています。
血圧を下げるなら、有酸素運動と筋トレはどちらが効果的?
ここで気になるのが、
「結局、どちらの方が血圧を下げるのか?」
という点です。
2025年にMoritaらが報告したメタ解析では、高血圧患者5,065人を対象とした84件のランダム化比較試験(RCT)が解析されました[2]。
その結果、運動を行わなかった群と比較して、運動介入全体では収縮期血圧が平均7.52 mmHg、拡張期血圧が平均4.36 mmHg低下していました。
さらに、
- 有酸素運動
- 動的レジスタンス運動
- 等尺性レジスタンス運動
- 有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせた複合運動
に分けて解析しても、血圧低下の大きさについて運動様式による統計学的な有意差は認められませんでした。
これは非常に興味深い結果です。
少なくとも現在のエビデンスからは、
「血圧を下げるなら必ず有酸素運動の方が優れている」
とは言い切れなくなっています。
ただし、ここで注意したいのが、
「統計学的な有意差がなかった=すべての運動が完全に同じ効果を持つ」
という意味ではないことです。
対象者、運動方法、運動強度、介入期間などは研究によって異なります。
したがって、「筋トレの方が優れている」「どの運動をしても同じ」と結論づけるのではなく、レジスタンス運動にも降圧効果があり、運動様式による明確な優劣は示されなかったと捉えるのが適切でしょう。
高血圧の運動療法は「有酸素運動だけ」ではなくなっている
これまで高血圧の運動療法では、有酸素運動が中心に考えられてきました。
現在も、有酸素運動が重要であることに変わりはありません。
ただし、JSH2025では近年の研究を踏まえ、レジスタンス運動についても降圧効果が期待できる運動として位置づけられています。
一方で、少し違う角度から血圧を見ると、まだ分かっていないこともあります。
2026年には、高血圧患者を対象として24時間自由行動下血圧測定(ambulatory blood pressure monitoring:ABPM)を評価したネットワークメタ解析が報告されました[3]。
ABPMとは、携帯型の血圧計を装着し、日中や夜間を含めた日常生活中の血圧を一定間隔で測定する方法です。
病院や診察室で測定する診察室血圧(office blood pressure)だけではなく、1日を通した血圧の状態を見ることができます。
この研究では31試験、1,345人が解析され、有酸素運動や複合運動などで24時間血圧の低下が認められました。
一方、動的レジスタンス運動と等尺性レジスタンス運動については、24時間血圧に対するエビデンスはまだ不確実とされています。また、運動様式同士を直接比較した結果からも、どの運動が優れているかについて明確な結論は得られていません。
つまり、
「筋トレにも降圧効果がある」
ことと、
「24時間を通して有酸素運動とまったく同じ効果がある」
ことは分けて考える必要があります。
エビデンスが増えてきたからこそ、「筋トレも有効だった」で終わらず、何を測定した研究なのかまで見ることが重要です。
有酸素運動と筋トレは「どちらか」ではなく組み合わせて考える
ここまで読むと、
「では、有酸素運動と筋トレのどちらを選べばいいのか?」
と思うかもしれません。
しかし、実際の運動指導では、私はこの二つを必ずしも二者択一で考える必要はないと思っています。
なぜなら、運動を行う目的は血圧を下げることだけではないからです。
特に高齢者では、血圧だけでなく、筋力や筋持久力、歩行・バランスといった身体機能に加えて、フレイルやサルコペニアの有無なども含めて考える必要があります。
例えば、下肢筋力が低下している人や、日常生活での身体機能低下が問題となっている人に、血圧だけを見て有酸素運動のみを選択することが、その人にとって最適とは限りません。
必要に応じてスクワットやカーフレイズなどのレジスタンス運動を組み合わせ、筋力だけではなく、歩行やバランスなどを含めた身体機能全体を考えながら運動を組み立てます。
ここで重要なのは、
「血圧に一番効く運動は何か?」だけで運動を決めないことです。
血圧だけを見るのではなく、その人にとって改善したい身体機能は何なのか。
その視点から、有酸素運動とレジスタンス運動を組み合わせて考える必要があります。
なお、「組み合わせた方がすべての人で必ず優れている」という意味ではありません。
どちらかを選ぶのではなく、目的に応じて必要な運動を選択する。
これが実際の運動指導では重要だと考えています。

高血圧の人は、実際にどのくらい運動すればいい?
では、実際の運動量はどのように考えればよいのでしょうか。
運動処方を考えるときに基本となるのがFITTです。
FITTとは、
Frequency(頻度)・Intensity(強度)・Time(時間)・Type(種類)
の頭文字をとったものです。
「運動してください」と伝えるだけではなく、
どのくらいの頻度で、どの程度の強度で、何分間、何を行うのか。
ここまで考えて初めて、具体的な運動処方になります。
有酸素運動
JSH2025では、高血圧に対する有酸素運動として軽度〜中等度の運動が基本となります。
運動強度としては最大酸素摂取量(VO₂max)の40〜60%程度、自覚的運動強度ではBorgスケール11〜13程度が一つの目安になります。
運動時間は1日30分以上を基本とし、週全体では150〜300分程度が目安になります。
ウォーキングや自転車運動など、継続しやすい運動から始めることが現実的です。
ただし、これらの数字をすべての人にそのまま当てはめるわけではありません。
レジスタンス運動
レジスタンス運動については、40〜60%1RM程度が一つの目安になります。
1RM(one repetition maximum)とは、正しい動作で1回だけ挙げられる最大重量です。
ただ、実際の現場では毎回1RMを測定し、そこから厳密に負荷を計算するとは限りません。
私自身、心臓リハビリテーションの現場ではRPEも確認しながら、「ややきつい」程度を一つの目安として負荷を調整しています。
また、最大筋力を高めることだけでなく、日常生活に必要な筋持久力や身体機能を考える場合には、15〜20回程度を目安にすることもあります。
回数ではなく、
「30秒間動き続ける」
という方法を使うこともあります。
時間で管理できるため、患者さん自身でも取り組みやすい方法です。
ただし、15回、20回、30秒という数字を達成すること自体が目的ではありません。
同じスクワット10回でも、ほとんど息が上がらない人もいれば、心拍数が大きく上昇し、強い息切れを感じる人もいます。
そのため、RPE、心拍数、息切れ、自覚症状、必要に応じて血圧反応などを確認し、その人にとって負荷が大きすぎないかを判断します。
息切れが強ければ休憩時間を長くする。
負荷が高すぎれば回数や強度を下げる。
反対に余裕があり、安全に行えているのであれば、状態を見ながら段階的に負荷を調整します。
また、高齢者では変形性膝関節症や変形性股関節症など、整形外科的な問題を併せ持っていることもあります。
その場合には循環器系の反応だけでなく、痛みや動作も確認しながら運動方法を選択します。
心拍数はどう考える?
有酸素運動の強度を設定する方法の一つに、心拍予備能(Heart Rate Reserve:HRR)を利用したカルボーネン法(Karvonen法)があります。
目標心拍数 =(最大心拍数 − 安静時心拍数)× 運動強度 + 安静時心拍数
という計算方法です。
心血管疾患患者の運動処方では、心肺運動負荷試験(CPET)から求めたAT(嫌気性代謝閾値)や、心拍予備能(HRR)、RPEなどを用いて運動強度を設定する方法があります。
カルボーネン法も、その中の一つの方法として利用できます。
ただし、心疾患患者や高血圧患者では、β遮断薬などの服薬によって心拍数の反応が変化することがあります。
そのため、計算した目標心拍数だけで運動強度を決めるのではなく、RPEや自覚症状、実際の運動中の反応なども合わせて評価することが重要です。
ガイドラインに示されている数字を知ることは重要です。
しかし実際の運動指導では、
「計算上、この心拍数だから大丈夫」ではなく、その負荷に対して目の前の人がどう反応しているかを見る。
そこまで含めて運動処方だと私は考えています。
大切なのは「どちらが優れているか」ではなく、その人に何が必要か
「高血圧の人には、有酸素運動と筋トレのどちらをやればいいですか?」
もしこのように聞かれたら、私はどちらか一方を選ぶ必要はないと答えます。
有酸素運動にはこれまで多くの研究があり、高血圧に対する基本的な運動療法として重要です。
一方で、現在ではレジスタンス運動についても降圧効果を支持するエビデンスが蓄積しています。
だからこそ、
「高血圧だから有酸素運動だけ」
あるいは、
「新しい研究では筋トレがいいから筋トレだけ」
という考え方にはしない方がよいでしょう。
現場では、その日の状態も見る
私自身、運動前の血圧が高かったからといって、一つの数値だけで運動内容を決めているわけではありません。
普段の血圧と比べてどうなのか。
数回測定しても高い状態が続いているのか。
頭痛など普段と異なる症状がないか。
服薬状況に変化はないか。
食事はとれているか。
体調や体温に問題はないか。
こうした、その日の基本的な状態を確認します。
普段と比べて血圧が高く、その状態が続き、自覚症状も伴っているのであれば、無理に運動を行わないという判断も必要です。
一方、自宅では普段そこまで高くなく、その日だけやや高めで、自覚症状もない場合には、状態を確認しながら通常より負荷を落として運動を開始することもあります。
その場合も、「運動を始められたから大丈夫」とは考えません。
運動中の血圧だけでなく、心拍数の上がり方、呼吸、発汗、不整脈、自覚症状など、普段と違う反応がないかを見ながら継続できるかを判断します。
レジスタンス運動を行う場合には、過度に力んで呼吸を止めないことも重要です。
私の場合、運動中に本人に回数を声に出して数えてもらうこともあります。
非常にシンプルですが、呼吸を止め続けないための一つの工夫です。
そして、有酸素運動でもレジスタンス運動でも、最初に決めた負荷を最後までやり切らせることを目的にはしません。
その人が実際に運動したときに、どのような反応を示しているのか。
そこを見ながら運動内容を調整します。
これは、AZ_ONEでこれまで紹介してきた、
Evidence(エビデンス)
→ Assessment(評価)
→ Interpretation(解釈)
→ Decision(意思決定)
という考え方にもつながります。
ガイドラインから「何が推奨されているのか」を知る。
目の前の人を評価する。
その情報を解釈する。
そして、その人に必要な運動を決める。
エビデンスを知ることと、目の前の人に適切な運動を提供することは同じではありません。
「エビデンスを実際の運動指導につなげる考え方はこちらで解説しています」
まとめ|高血圧の運動は「有酸素運動か筋トレか」の二択ではない
高血圧に対する運動療法では、有酸素運動が重要であることに変わりはありません。
一方、近年はレジスタンス運動についても降圧効果を支持するエビデンスが増えており、JSH2025でも運動療法の選択肢として位置づけられています。
現在のエビデンスを踏まえると、
「血圧を下げるなら有酸素運動だけ」
と考える必要はありません。
しかし同時に、
「筋トレの方が優れている」
「どの運動をしてもまったく同じ」
と考えるのも適切ではありません。
有酸素運動とレジスタンス運動のどちらを行うかは、血圧だけでなく、筋力、身体機能、その日の状態、そして実際の運動に対する反応などを踏まえて考える必要があります。
ガイドラインに書かれている運動強度を覚えることも大切です。
ただ、それ以上に現場で重要なのは、
「何をやらせるか」だけではなく、「その人がその運動にどう反応しているか」を見ること。
エビデンスを目の前の人に合わせて使う。
それが、高血圧に対する運動指導でも重要なのではないでしょうか。
参考文献
- Ohya Y, Arakawa K, Arata N, et al. The Japanese Society of Hypertension Guidelines for the management of elevated blood pressure and hypertension 2025 (JSH2025). Hypertension Research. 2026;49:9–235.
- Morita H, Abe M, Suematsu Y, et al. Resistance exercise has an antihypertensive effect comparable to that of aerobic exercise in hypertensive patients: a meta-analysis of randomized controlled trials. Hypertension Research.2025;48(2):733–743. doi:10.1038/s41440-024-01998-9.
- Schneider VM, et al. Effects of different exercise training modalities on 24-hour ambulatory blood pressure in adults with hypertension: a network meta-analysis of randomised controlled trials. British Journal of Sports Medicine. 2026;60(13):983–990. doi:10.1136/bjsports-2025-111474.
